仙台発・大人の情報誌「りらく」2018年6月号「顔語り」より

「小学生の頃、なんでお前の家、石屋なんだと友だちに言われたし、自分でも思ってましたね」。
家業は経石づくり。今では墓地管理まで幅広い業務を行うカワムラ石ヤの若き社長は、幼い日を思い出しながら穏やかな目に人懐っこい笑みを浮かべる。

初代は墓の表字に法名・記念碑文字などを刻む字彫り師だった。かつての日本の伝統は、細部まで専門化された技術によって成立していたのだ。時代と共に字彫り師から石屋へ。小学校の頃は中江に自宅と郷六工場があり、祖父と父が墓石をつくっているのを見て育った中学・高校時代はサッカーに熱中したが、高校3年の進路を決める時点でとくにやりたいことはなく、力といって家業を継ぐことに心は動かない。そんな中で自衛官という仕事が浮上したが、それとて、いとこが自衛隊にいたことと、体を動かすのが好きだからというだけの理由だった。「入隊前に研修所で宿泊した時、これは何か違うなと思ったんです。その日に、隊長に帰りますと告げました」。その後1～2週間は何もせずに家にいた。すると父から声をかけられ、とりあえず家業の石屋を手伝い始めたものの、自分ではすぐやめるだろうと思っていた。「ところが、人と関わりながら仕事を進めていくのが心地よかったんです。お客様の注文を間き、石を彫り、施工まで全て行い感謝される。いいなあと」。父から家業を継げと言われたことは一度もない。自衛隊に入りたいと話した時も、いいんじゃないかのひと言だった。進むべき道は、他でもない目の前にあった。「結果、良かったです」。

仕事の場ではよく親父に怒られたと話す。寸単位ではなく厘単位の正確さが要求される厳しい技術の世界。「正直、そこまでしないといけないのかと思ったこともありましたが、細部へのこだわりがあってこそ今日までやってこれたのだと、今では理解できます」近年墓石にも耐震性が求められ、業界では様々な施工方法の技術が導入されるようになったが、代々の墓石屋としては先祖から言われたことを守りながら、耐震ゴムポンドだけの技術に徹している。
「勉強は苦手でしたが、今は親父からできるだけ学びたいと考えています」。CADで図面を起こし、お客様に提案する。墓石に法名を彫る。一貫して責任を持ってできる仕事。その一つ―つの技を磨きたいと、かつてサッカーに夢中だった頃のように墓石業と向き合う。

葛岡内の（株）カワムラ石ヤが管理する緑（寺院）永代・代々墓地は、公閲と見まがうほど美しく清々しい空間だ。墓地という暗い印象はない。その中に、まるでネパールの寺院のような円形屋根の永代供養塔が凛として在る。父と共に石屋伝統の技を注ぎ込み、石だけで組み上げた建造物で、近づくほどにその匠の技術に驚かされる。他には永代個人墓や樹木庭園葬などもこの場所で手がけた。「一生残せる仕事に強いやりがいを感じています」お墓・供養に関わる時代のニーズは大きな曲がり角を迎え、様々な広がりを見せる昨今。「形は変わっても、日本人が築いてきた伝統だけはぶれてはいけないと思っています」と語る。

25歳で結婚し、代表を継承したのは28歳の時。今年で5年目になる。日曜も仕事をするかたわらでは、3人の子どもたちが明るい芝生の上で遊んでいるそうだ。家の業と技は、そうして受け継がれていく。ぶれない心の持ち主は、悠々と広がる緑の公園募地を見渡し、焼けた肌に澄んだ瞳を輝かせる。